押出成形

押出成形は、現代の製造業において重要な役割を果たす成形技術のひとつです。特に一定の断面形状を持つ製品の大量生産に適しており、建材やパイプ、フィルムなど、私たちの日常生活に密接に関わる多くの製品がこの技術によって作られています。

押出成形とは何か

押出成形(おしだしせいけい)とは、加熱して溶融した材料を押出機(エクストルーダー)を用いて金型(ダイ)に通し、特定の断面形状を持つ製品を連続的に作り出す成形技術です。プラスチックをはじめ、金属やゴムなど幅広い材料が使用されます。この技術の特筆すべき点は、断面形状が一定であれば、製品の長さに制限がないため、長尺の製品や大規模な連続生産に向いていることです。

建築現場で使用される給水管や排水管、農業用のフィルム、あるいは電線を覆う被覆材など、製品の形状が断面で規定されるものは押出成形向きです。また、押出成形は大量生産を低コストで実現できるため、消費財から産業用製品まで幅広い分野で採用されています。

押出成形の仕組み

材料の投入から溶融まで

押出成形に使用される材料は、ペレット状または粉末状で供給されます。この材料は押出機に設置されたホッパーに投入され、押出機内部の加熱ゾーンで溶融されます。加熱温度は材料によって異なりますが、ポリエチレン(PE)の場合は180~230℃程度が一般的です。スクリューが回転することで材料が押し進められ、均一に溶融されるとともに、金型に向けて圧力が加わります。

金型を通じた成形

溶融した材料はスクリューによって前進し、金型(ダイ)に押し出されます。金型の設計が製品の断面形状を決定します。パイプを製造する場合は円形の金型、シートを製造する場合は平板状の金型が使用されます。この工程では、材料の流動性が非常に重要であり、金型内での圧力分布や温度管理が精密である必要があります。

冷却と固化

金型を通過した材料は形状を保ったまま冷却されます。冷却方法としては、水冷、空冷、油冷があり、製品の素材や仕様に応じて選択されます。プラスチックフィルムの場合は冷却ローラーを使用し、パイプやチューブのような製品では冷却水槽が利用されます。冷却後、製品は固化して最終的な形状が固定されます。

引き取りと切断

固化された製品は引取機により一定の速度で引き取られ、連続的に製造されます。引取機の速度は製品の厚さや強度を調整する上で重要な役割を果たします。その後、製品は所定の長さに切断され、梱包されるか、次の加工工程に送られます。

押出成形の利点

押出成形のメリット

断面形状がまったく同じ製品を連続して製造できるため、大量生産に適しています。切断する場所を変えても一定の形状が得られるため、パイプやフィルム、シート、異型断面など様々な製品に対応可能です。

押出成形に用いる金型は比較的単純で可動部品を必要とせず、射出成形と比べて初期コストが抑えられる傾向にあります。金型費用やメンテナンス負担を低減できるため、コスト効率の面でも選択肢となり得ます。

押出成形のデメリット

同一断面形状の製品しか製造できないため、少量生産には適していません。寸法精度には限界があるため、複雑な3D形状や変形の多い部品の製造には不向きです。

金型を用いるという構造上、金型の製作には初期投資と時間がかかります。そのため、小ロットや試作段階の製造にはコスト効率が悪く、短納期にも対応しづらいという。

押出成形の具体的な用途

押出成形は、その汎用性の高さから多くの分野で利用されています。建材や自動車産業、電子機器、包装分野など、多様な用途で活用されています。建材では給水管や断熱材が、自動車産業ではシール材やワイパーブレードが代表例です。また、電線の被覆材や食品包装用フィルムなど、身近な製品にも押出成形の技術が用いられています。

押出成形の展望と未来

押出成形技術は、持続可能性や精密化をキーワードに進化を続けています。環境負荷を低減するためのバイオプラスチックやリサイクル材料の利用が増加しています。また、IoTやAIを活用した生産の効率化も進んでおり、製品の品質向上やコスト削減が期待されています。

押出成形の代表方式(Tダイ/インフレーション/パイプ・プロファイル)

Tダイ(フラットダイ)法:溶融樹脂をハンガーダイ(コートハンガー)から平板状に押し出し、急冷ロールで固化してシートやフィルムを得る方式。多層化はフィードブロック法やマルチマニホールド法で実現されます。典型的な装置は押出機、Tダイ、冷却ロール、引取機、巻取機、切断機で構成。

インフレーション(ブローフィルム)法:円形ダイからチューブ状に押し出した樹脂を空気で膨らませて薄膜化し、冷却・巻取りする方式。PE系包装フィルムなどで主流。バブル安定と冷却条件が膜厚・ヘイズに大きく影響します。

パイプ・チューブ・プロファイル押出:円形ダイやプロファイルダイで管材・異形材を連続成形。冷却水槽とキャタピラ引取機で寸法安定性を確保します。

押出機の種類:単軸と二軸の使い分け

単軸押出機:構造が簡潔で運転・保守コストが低く、パイプやシート、単一材料の押出に最適。一般的な用途で広く採用。

二軸押出機:混練・分散・脱揮・フィラー配合に強く、再生材(PCR)とのブレンド、多層共押出のサブ押出などで選好。並行同方向二軸は高せん断混練とスケールアップ性に優れます。

材料と温度プロファイルの基本

温度設定はフィード→シリンダ各ゾーン→ダイの順で最適化します。PE/PPでは「前半で完全溶融、後半〜ダイ前で過熱抑制」が安定化に有効。ゾーン温度設計は粘度・圧力・寸法ばらつきに直結するため、立上げ時は各ゾーンの役割を明確にしてチューニングします。

共押出(例:表層アクリルなど)では、前半で完全溶融→後半でわずかに温度を落とすプロファイルが層間安定に寄与する場合があります。

品質不良と対策(トラブルシューティング早見)

  • メルトフラクチャー/サメ肌:高せん断で表面粗れ。
    対策=ダイ温度上げ、スループットやせん断低減、ダイランドの仕上げ・長さ最適化、フッ素系添加剤やコーティングの活用、オリフィス断面積の見直し、必要に応じて高流動グレードへの変更。
  • ダイライン/フィッシュアイ:ダイ内滞留・異物・溶融不均一。
    対策=フィルター管理と清掃、材料乾燥、温度均一化、樹脂のゲル管理。
  • ネックイン(フラットダイ):端部で幅が縮む。
    対策=リップ温度やテンション、引取速度・冷却条件の最適化。エッジビードとの相関も考慮しましょう。
  • サージング(吐出脈動):供給不安定・温度/粘度むら。
    対策=背圧調整、スクリーン交換、ゾーン温度段差の緩和、材料のロット管理。

設計・条件出しの実務指標

1) スループットと引取速度の考え方

シート・フィルム:引取速度 × 有効幅 × 厚み × 溶融密度 ≈ 質量スループット(kg/h)。プロファイル材は断面積に置換。押出機側はスクリュー径・ピッチ・回転数・チャネル深さ・圧力損失から「ドラグ流−圧力流」で見積もるのが定石です。

2) エネルギー指標(SEC:kWh/kg)の目安

単軸押出のモータ起因SECは目安として約0.1〜0.2 kWh/kgレンジ。材料やスクリュー設計、加熱・補機の寄与によりライン全体ではさらに増減します。最新の研究報告では、HIPSで約0.26 kWh/kg、rPPで約0.34 kWh/kgの実測例も示されています。省エネにはスクリューデザイン、予熱、運転点の最適化が有効です。

3) 計測・規格(レオロジーと流動性)

MFR/MVR(ASTM D1238):一定温度・荷重での質量/体積流動率。原料ロットの管理や押出条件の初期目安に利用。

キャピラリーレオメータ(ISO 11443):高せん断域での粘度特性・ダイスウェル等を評価し、金型・スクリューデザインの入力に活用。

サステナビリティと再生材料の活用

PCR(再生材)を取り入れる場合は、脱ガス・混練・フィルタリング能力が重要。二軸の分散・脱揮や「表層バージン×中間層PCR」の多層設計で外観・物性の安定を図れます。

安全・品質・保全の実務ポイント

  • 立上げ・段替え時のダイ清掃/スクリーン交換をルーチン化(ダイライン・ゲル低減)。
  • 温度プロファイルの最適化(過熱や未溶融の回避、吐出圧の安定)。
  • フラットダイはリップ開度・エッジピン・冷却ロール条件で幅・厚みを制御。
  • エネルギー(kWh/kg)をKPI化し、モータ負荷・加熱損失を可視化して継続改善。

よくある質問(FAQ)

Q.単軸と二軸、どちらを選ぶべき?

A.単一樹脂での成形・コスト重視なら単軸、配合・分散・脱揮量が鍵なら二軸が有利。再生材や多機能ブレンドを考えるなら二軸を検討しましょう。

Q.フィルム幅が縮む(ネックイン)の原因は?

A.引取テンション・温度・冷却の不均衡が主因です。リップ温度・引取速度・冷却条件を系統立てて調整し、エッジビードの発生とも併せて監視します。

Q.表面のサメ肌が止まりません。

A.せん断低減(スループットや温度の見直し)、ダイランドの仕上げ改善、潤滑性付与(添加剤・コーティング)、必要に応じ高流動グレード選定を段階的に実施してみましょう。

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