多色成形(2色成形)は、プラスチック製品の製造手法である射出成形の発展形です。1つのサイクルで、異なる種類の樹脂や別の色の材料を組み合わせて1つの部品を成形できます。
多色成形(2色成形)はダブルモールドと呼ばれることもあり、金型や成形機に特殊な仕組みを備えているのが特徴。成形機にノズルとシリンダーが2本あり、2種類の材料を扱えます。1回目に射出成形した製品を回転や反転などで別のキャビティに移動させ、2回目の材料を射出することで製品が完成します。
こうした仕組みにより、一部だけ柔らかい樹脂を使ったり、光を透過させる透明樹脂を部分的に成形したりなど、多彩な表現や機能を一体化できる点が大きな魅力です。
多色成形の最大の利点のひとつは、組み立て工程を減らせることです。例えば、異なる種類の単色成形品を別々に作ってから、ネジや接着剤で組み合わせる必要があったものも、多色成形ならば1サイクルで一体化して製造が可能。これにより、半製品の在庫管理コストも抑えられます。
さらに、必要な箇所だけ特定の材料を使用することが可能なため、単価が高い材料の使用も抑えられ、総合的に見てコスト削減につながりやすくなります。
高機能かつ形状が複雑な製品でも、部品全体を一体化できるのも多色成形のメリットの一つ。例えば、シリコンの防水部品の製造において、硬質樹脂を使用して本体の硬さを保証しつつ、エラストマー樹脂を被せて滑り止め効果を実現した事例があります。
また、複数の色を使って意匠性を高めたり、同じ素材でも異なるグレードを組み合わせて厚みのある部品の成形不良を防いだりするなど、多色成形は幅広くカスタマイズの要望に応えられます。
2種類の樹脂を機械の中で射出して製品を仕上げるため、人手による組み立てミスやバラつきを抑えられます。組み立て工程が少ない分、不良品が発生するリスクも低減できる上、リードタイムも短縮。生産量が増えれば増えるほど、こういった利点はより顕著に現れます。
多色成形を行うには、専用の射出成形機や複雑な構造の金型が必要になります。単色成形より成形機本体の価格が高く、金型製作の難易度も上がるため、初期費用は高めです。特に、大型の製品や高精度が求められる場合、金型の構造が非常に複雑になり、金額はさらに高くなる可能性があります。
ただし、最終的に大量生産を行う場合や、組み立て工程の削減分でコストダウンできる場合は、十分に投資を回収できるケースが多いです。
多色成形では、2種類の材料が密着しなければ、剥がれや亀裂などの不具合が出るリスクがあります。同じ樹脂でもグレードによって組み合わせ方が異なるため、事前に流動解析や接着試験を行って、きちんと融着しやすい条件を把握しましょう。
また、異素材を組み合わせる場合、化学的相性のほかに、融点の違いや成形温度の兼ね合いも考慮しなければなりません。この点を誤ると、1回目に成形した部品が変形してしまったり、流れ込む樹脂が予定外の部分に侵入して外観が乱れたりする場合もあります。
金型の設計や温度制御、射出順序、回転機構など、多色成形ならではの複雑なプロセス管理が必要です。単色成形に比べて設定項目が増えるため、現場のオペレーターや技術者に高度な知識が求められます。特に、温度管理の精度や樹脂の充填スピード・圧力の制御が不十分だと、2回目で射出される材料が1回目の部分を傷めてしまい、不良品の発生率が高くなってしまいます。
一般的に、1回目の射出にはABSやPC、ナイロン(PA)、PBTなど、比較的硬度の高いエンジニアリングプラスチックが使われることが多いです。こうした硬質樹脂は機械的強度や耐衝撃性に優れているため、製品全体の骨組みを作るのに適しています。他には、PC-ABSのような複合材料を使うこともあります。
2回目の射出で多く使われるのが熱可塑性エラストマー(TPE)です。ゴムのような弾力がありながら、再度加熱すれば溶ける性質を持ち、滑り止めや耐衝撃性、防振性に優れています。また、製品の手触りを良くしたい部分にエラストマーを成形することで、グリップ力を高めたり装飾性も向上できます。ただし、エラストマーと硬質樹脂の相性はそれぞれなので、密着不良を防ぐためにも事前の材料試験が重要です。
多色成形(2色成形)は製造業の様々な分野で使われており、特に自動車部品、医療機器、家電などの製造では不可欠な存在です。
車両内にさまざまな電装部品を接続するために使用されるWire to Wireコネクタを2色成形で製造した事例です。
中身の金属端子はインサート成形で埋め込まれており、外観は異なる樹脂を一体成形することで高い耐久性と視認性の向上を実現。絶縁性と強度を兼ね備え、安全で確実な接続を提供します。
EVのバッテリー管理システムなどでよく使われるINVコネクタを2色成形した事例です。
異なる素材の組み合わせでコネクタの強度を保ちつつ、柔らかい部分で自動車の振動や衝撃による端子の接触不良を低減します。
金型設計から、2色成形を用いた部品の製造・塗装・部分組立まで一貫生産した血糖値計ユニット。
一体化して成形することで、見た目のデザイン性とユーザーの操作しやすさが上がるほか、防塵・防水性も向上します。
多色成形の成否を分ける大きな要素に金型の品質があります。金型が複雑でかつ高い精度が求められるため、外部の金型メーカーと連携するケースも少なくありませんが、なるべく金型の設計から製造までを自社またはグループ内で行っている企業を選ぶほうがメリットは大きいです。
金型と成形プロセスを統合的に設計できる会社であれば、試作段階での修正や細かな調整がスムーズになります。金型メーカーと成形メーカーが別々にある場合、修正が必要な時に何度もやり取りが発生して時間もコストもかかってしまいます。一社内ですべて完結できれば、納期が短縮でき、品質もより安定するでしょう。
多色成形では、樹脂の流れを事前にシミュレーションする「流動解析」が非常に重要です。これによって、材料同士の収縮率や形状上の落とし穴を早い段階で見つけられます。対応可能な解析ソフトを持ち、トライアル成形による試作を迅速に行える会社なら信頼性も高まります。
また、少量の検証用サンプルを作り、実際に部品の合体状況や外観をチェックするプロセスをしっかり踏める企業であれば、量産に移行してからの不具合リスクを大きく抑えられるでしょう。
多色成形は単色成形より工程が複雑なので、実績のある会社を選ぶ方が安心です。特に、医療系や自動車部品など精確さが求められる製品の製造実績があれば、厳しい品質基準をクリアしていると信頼できます。
また、量産段階に入ってからの不具合対応、追加注文や仕様変更へのフレキシブルなサポートなども確認しておくと良いでしょう。アフターフォローが手厚い会社は、長期的に見てコストメリットが高いといえます。
多色成形が使われている分野としては、車載用エアコンの内外気切替スイッチやサイドスポイラーなどの自動車部品、PC用キーボードのキートップやマウス、カメラのストロボ、ゲームコントローラー、プラモデル、ボールペン、ヘッドフォン、水筒、タッパー、電動工具部品など様々な分野で広く使われています。
多色成形は主に熱可塑性樹脂同士の組み合わせを想定しており、金属やセラミックではなく「2種類以上のプラスチック材料」で機能を持たせることに焦点が置かれています。硬質と軟質の2種類の樹脂を使ったり、異なる色や透明樹脂を組み合わせる工程での使用が多いです。
一方、インサート成形は、金属パーツやセラミックなどを金型内にセットし、周囲をプラスチックで成形して一体化する工法です。金属と樹脂を一体化したい場合や、ねじ山付きのナットを樹脂部品に埋め込みたい時などによく使われます。
多色成形には2本のシリンダーを備えた専用の射出成形機や、回転・反転機構付きの金型が必須になります。構造が大がかりなので、成形機自体が高価になりがちです。しかし、2種類の材料を同時に成形でき、工程を1サイクルにまとめられるのが大きな強みです。
インサート成形は、通常の単色射出成形機を使い、成形前に金型にインサート部品を装着しておく方式が一般的です。大量生産する際には、人手によるインサートの装着をロボットやトラバース装置で自動化することがあります。
インサート成形は、金型に毎回インサート部品をセットする必要があり、その作業精度によって品質が左右されることがあります。それに対し、多色成形は成形機内で完結するため、人手によるミスが起こりにくいです。
また、インサート成形はセット作業が伴うので、タイムロスが避けられないでしょう。多色成形の場合、組立工程が削減できるため、短いサイクルで安定した量産が期待できます。
多色成形(2色成形)は、複数の樹脂を1つの製品にまとめ上げ、機能性と意匠性の両立を可能にする射出成形技術です。その反面、高価な金型や高い技術力が必要になるなど、デメリットも存在。しかし、適切な素材選定や信頼できる加工会社を選べば、大幅なコストダウンと品質向上を同時に実現できる大きなポテンシャルがあります。
金型の設計から一括して対応できる企業であれば、試作や修正が素早く進み、量産段階でもトラブルを回避しやすくなるでしょう。多色成形を検討する際は、この技術のメリットとデメリットをよく理解し、自社製品に最適な方法かどうかを見極めてください。きちんと技術を活かせれば、高度なデザインや機能が求められる製品を効率よく生み出すことができるはずです。
国内外すべての事業所で国際品質保証規格ISO9001:2015の認証を取得。また、自動車産業向け(ISO/TS16949)、医療機器向け(ISO13485)のISO品質マネジメント規格認証を別で取得しており、厳格な品質管理で金型作成・部品成形に対応します。
創設(1970)以来、生活雑貨や家電製品などの金型を手がけてきたノウハウで、熱可塑性樹脂金型、熱硬化性樹脂金型、ダイカスト金型のいずれにも対応可能。金型品質とコストのバランスを考慮しつつ提案してくれます。
化粧品・食品容器金型製造を手がけて50年。「職人×多能工」の考え方で、機能とデザインを両立させた化粧品容器の金型を製作しています。製品のイメージがあれば、図面がなくても発注できます。